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空想作家と専属イラストレーター&猫7匹の                 愛妻家の食卓

空想作家と専属イラストレーター&猫7匹の     愛妻家の食卓

たんぽぽとさくら

『タンポポとサクラ』       
          
僕はタンポポ、小さな原っぱで生まれた。
そう、僕はまだふわふわ綿毛のタネなんだ。でも、もうすぐここを飛び出して大空を飛び、どこかの大きな街で立派な花を咲かせるんだ・・・
そして、待ちに待った旅立ちの日、みんなが旅立つ中、僕はできるだけ遠くへ飛べるように、とびっきり強い風を待っていた。

「僕がつかまっていられないぐらい強い風、速く吹いて来い」

そう言って待っていると、とっても元気な風さんが僕を一気に空高く飛ばした。

「わぁ、凄い!ありがとう風さん!」

〈やぁ、おいらはもうすぐ春だってみんなに知らせる風なんだ、君はどこまで行くんだい?〉

「人が沢山いる遠くの街まで行くんだ、そこで僕が咲かせる花をみんなに見てもらうんだ」

〈へぇ、じゃあ力いっぱい飛ばしてあげるから、頑張ってキレイな花を咲かせてね〉

「うん」

すると、風さんはヒューっと僕を吹き飛ばした。

〈じゃあね、また来年の春、会おう!〉

「うん、きっとね!」

そうして僕は風さんの力を借りて空高く、大きな街を目指した。        
大空の旅、なんて空は気持ちがいいんだろう、僕はどこまでも行ける気がした・・・山を越え、谷を越え、夜になっても星空の下を、朝が来ても飛び続けた。
そうして、やっと目の前に大きな街が姿を現した。

「あった!なんて大きな街なんだ、よし!あの街にしよう」

大きな街の真ん中に花を咲かせるのが僕の夢だった。
ところが!後もう少しという所で空が急に暗くなり、ぽつりぽつりと雨が降ってきた。

「わぁー」

雨は僕に当たり、そのままどうしようもなく落ちてしまった・・・

「ここはどこ?」

見渡すと街はずれの公園のようだった。

「もう少しだったのに・・・」

もう、どう頑張っても体が濡れて飛ぶ事ができない。あきらめるしかなかった・・・

〔おや、タンポポの子だね〕

「わっ!」

突然、後ろから誰かが声をかけた。恐る恐る振り返ると、すぐ後ろには大きな古ぼけた木が立っていた。

「なんだ・・・木のおじいさんか」

〔これからここで一緒に暮らす相手にむかって、なんだはないだろう〕

「はぁー」

大きくため息をつく僕におじいさんは構わず話を続けた。

〔何が気に入らないんだ?ここは日当たりも風通しも良いというのに〕

「でも、ここは・・・僕はこんな目立たない所が嫌なんだよ」

〔何だ、そんな事を気にしていたのか(笑)〕

「当たり前じゃないか、誰にも見られないなら咲く意味なんてないよ・・・」

〔それなら大丈夫!わしが人を集めてやろう〕

「おじいさんが?・・・」

〔そうじゃ、だから元気を出しなさい〕

「う、うん・・・」

僕はその時、こんな古ぼけた木にそんな事できるはずがないと思っていた。だけど、あくまでも優しいおじいさんに少しずつ心を開いていった。

「おじいさんはいつからここに立っているの?」

〔そうじゃなぁ、かれこれ200年にはなるかのぅ〕

「200年!そんなに?」

〔そうじゃよ、この公園もあの街も当たり一面、何もない頃からずっとな〕

「へぇ、だからこの当たりの事は何でも知ってるんだね」

〔そういう事じゃ〕

僕は少しずつおじいさんを尊敬するようになっていった。
そして、僕が芽を出し、順調につぼみをつけようという頃、季節はずれの寒い日がおとずれた・・・

「寒くてもうダメだよ・・・」

〔頑張るんだ、わしにキレイな花を見せてくれるんじゃろ、これを過ぎればもう暖かい春になるから〕

「でも、もう立っていられない・・・」

と、僕が倒れようとした時、僕のまわりの地面だけがほんの少し暖かかくなった。

〔どうじゃ、少しだけだが暖かくなったじゃろ?頑張るんじゃ負けるんじゃない〕

「この暖かさはおじいさんなの?ありがとう僕、頑張るね」

そうして、なんとか寒さに耐え、僕は前よりもずっと元気になった。僕は少しずつおじいさんに感謝するようになっていった。そして、寒い日を過ぎるとおじいさんが言ったとおり、ずっと暖かくなった。

〔もう少しじゃな〕

「うん、絶対、キレイな花を咲かせるからね」

僕はたとえ多くの人に見てもらえなくても、おじいさんに立派な花を見せてあげる為に張り切っていた。そして、ある日の早朝・・・

「おじいさん!起きて!僕、咲いたよ、見て!」

〔どれどれ、おぉ、何て可愛らしく美しい花なんだ、それに堂々として立派だぞ〕

「ホント?」

〔あぁ、本当にキレイじゃ〕

「これもみんなおじいさんのおかげだよ、ありがとう」

〔わしの為にこんなキレイな花を見せてくれたお礼に約束をはたすとするかのぅ〕

「約束?」

〔そうじゃ、わしが沢山の人を呼んでやると言ったじゃろ、上を見て見なさい〕

「えっ!」

僕が驚いて見上げると、おじいさんは枝という枝に沢山の淡紅色のつぼみがついていた。

「おじいさんて一体・・・」

〔何だ、今まで知らなかったのか、わしは桜じゃよ〕

「サクラ?・・・」

名前だけは聞いたことがあった。この国で一番キレイな花だと・・・

〔よし、坊やの花が咲いているうちにわしも花を咲かせてやろう〕

そう言ったとおり次の日、おじいさんはいっせいに沢山の花を咲かせた。

「わぁ・・・」

ため息がでるほどの美しさだった。おじいさんは全国のサクラの中でも有名なサクラらしく沢山の人々が集まった。

「おじいさんって、すごい木だったんだね、こんな沢山の人がこんな何にもない所におじいさんの花を見にやってくるなんて、ホントに凄いよ!」

〔坊やの花も可愛くてキレイだとみんなが言っているじゃないか〕

「うん、嬉しい、おじいさんのおかげで夢がかなったよ、ありがとう」

〔わしも今までにこんなに楽しい日々を送ったことはない、ありがとう〕

「でも、おじいさんにはホントお世話になってばっかりだったね、何か僕にお礼が出来ればいいんだけど・・・」

〔それなら、ここに種を少し落としてはくれないか、やっぱりひとりよりにぎやかな方がいい〕

「うん、僕もそうしようと思っていたんだ、これからもよろしくね」

〔こちらこそ〕

そうして、いつしかサクラのまわりにはタンポポが一面、咲くようになりました。                               

                        終わり。


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